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初戀 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 いつか、二人で
カフェ浪漫の看板が見えて来た。
既に閉店しているはずなのに、仄かな灯りが見える。
当麻は扉をそっと開ける。

綾香がカウンターに座り、頬杖をつきながら蓄音機から流れる音楽にぼんやりと耳を傾けていた。
…僕があげたあのレコードだ…。

「…綾香さん…」
当麻はそっと声をかける。
綾香はびくりと身体を起こし、当麻を避けるように立ち上がり背を向けた。

「聞いて、綾香さん。僕は見合いなんて聞いてなかったんだ。ただの親子で食事と聞いていたから…でも…結果的に綾香さんを傷付けてしまった。…本当にごめん!先方には、見合いはする気はないとはっきり断ってきたよ」
「…」
「綾香さん、ごめんね…」
綾香は振り返らずに、静かな声で答える。
「…望己さんが謝ることなんかないわ…。私ね、怒っている訳でも悲しんでいる訳でもないの…」
「綾香さん?」
「…さっき、あのテーブルに座っている望己さんを見て、ああ…望己さんはやっぱり私とは別世界の人なんだ…て思い知らされたの。…立派なお父さん…お見合い相手の方もお金持ちのお嬢様で…煌びやかで…。私…勘違いしてたんだな…て。…だから、いいの…もう」
当麻は足早に綾香に近づき、背後から綾香を強く抱きしめた。
「何がいいの⁈もう僕とは別れるってこと⁈」
「…だって、貴方と私とでは住む世界が違いすぎる…」
「そんなの関係ない!僕は綾香さんが好きだ!このままの綾香さんが好きだ!大好きだ!」
「…でも…‼︎」
「でもじゃない!こっち向いて、綾香さん!」
綾香の顎を捉え、自分の方に強引に向かせる。
はっと手が止まる。
綾香のその大きな美しい瞳には水晶のように透明な涙が溢れていた。
「…ごめん…!綾香さん!」
当麻は再び、綾香を抱きしめる。
強く強く…ほっそりとした綾香の身体が砕けそうになるまで抱きしめる。
「…私、怖いの…これ以上、貴方を好きになるのが怖い…」
「何が怖いの?」
「今でもこんなに望己さんのことが好きなのに、もっともっと貴方を好きになってしまったら…もう後戻り出来ない!貴方と私は住む世界が違うのに…!」
「綾香さん!」
当麻は綾香を強く抱きしめる。
「住む世界なんか関係ない!もし、綾香さんが違うと言うなら、僕が君の世界に行く!何もかも捨てる!君と生きていく!」
「…望己さん…!」
綾香は涙を流しながら当麻の顔を見つめる。


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