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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
…私はあの夜に、梨央様の手を取らなかったことを後悔したことは一度もない。
なぜなら、梨央様は今や運命の方に巡り会え、この上もなくお幸せそうで、この上もなくお美しいからだ。
そのようなお美しい梨央様のお側で生涯お仕えできる執事の自分は、有り余るほどの幸福だと思っている。
これは揺るぎない事実だ。

しかし、時折ふと思う。
…もし、あの時に梨央様の手を取っていたならば…と。
それはまるで…あの月の頂まで、梨央様と飛んで行くような夢のような妄想にすぎないけれど…。

…私を月まで連れて行って…。
そうしたら、ずっと二人きりでいられるから…。

…私は時折、夢を見るのだ。
月の川を…梨央様の手を取り二人きりで渡ってゆく美しくも儚い夢を…。


月城は真昼の月を目を細めて眺める。
そして静かに微笑むと、いつものように完璧な執事然とした端正な姿で、再び別荘へと続く道を迷いなく歩み出すのだった。



〜Fin〜
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