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背徳のディスタンス
第1章 プロローグ
馬鹿にされてる。奈々の頭に血が上る。普段は奈々の言うことを素直に聞く、真面目な子だ。多少理不尽に怒ったりしても、言い返してくることもない。素直に謝り、反省し、同じミスはしないよう努めてくれる。
初めて任された新人教育だった。望のことは後輩としてとても可愛がっていたつもりだし、望自身が有能で周りに期待されていることを、嬉しくも誇らしくも思っていた。そして望の存在は、奈々自身仕事をさらに頑張ろうというモチベーションにも繋がっていたのだ。
プライドが高く人見知りもあり、特に男性とコミュニケーションを取ることがあまり得意ではない奈々だったが、自分なりに精一杯、望を教育してきたつもりだったのに……。そして、望もそれに応えてくれていると思っていたのに。
望の言動や態度は、奈々を激しく打ちのめした。
「……最低」
呆然と呟くと、つかの間望は真顔になった。だけどすぐに、なぶるような視線を向けてくる。
「気が向いたら削除してあげますって。大丈夫、まだばらさないんで。……その代わり、先輩は今日から俺のおもちゃですよ?」
「お、おもちゃ!?」
顔をあげた時には、望の姿はなかった。談話室のドアが閉まる音だけが、室内に重々しく響き渡ったーー。