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Vesica Pisces
第10章 太陽は静寂を包む
「お前ぜってぇわかって言ってるだろ?」

伽耶が浮かべる笑顔につられて笑う。

「キスさせろ」

えっと目を丸くした伽耶を一瞬だけ捉えて、直ぐに唇を重ねた。

エレベーターは直ぐに到着してしまい、名残惜しげに唇を離す。

手を繋いでロビーへ出ると窓辺から外を眺めている吉信の元へと向かった。

「これ、俺の」

吉信はまじまじと伽耶を見つめた。

「こっち、俺のコーチで親父の桐生 吉信と、西原 然、こいつもプロのスノーボーダー予定」

「予定じゃないし」

伽耶の表情が一気に硬くなる。

「こいつ、耳が聴こえない」

「そうか、まぁ可愛いからいいだろう」

吉信は予想通り全く気にする様子はなく、にっこりと微笑んだ。

この笑顔に救われた日のことを少しだけ思い出した。

『宜しくお願いします』

ぺこっと頭を下げる伽耶。

「産まれた時から聴こえないの?」

ぽつりと発した然。

『10歳くらいからです』

「中途難聴って少しは音覚えてるって聞いたことあるんだけど、全く話せないの?」

然のそれに悪気なんてあるはずもなく、ただただごく当たり前に疑問を口にしただけ。

けれど、もしかして伽耶が話せたらなんて願望に伽耶の答えを待っていた。
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