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Vesica Pisces
第2章 太陽は静寂を知る
「あ、でもね、こっちが話してる事は口の動きでわかっちゃうんだよ、だから全然普通」

未知の説明なんて正直どうでも良くて。

万里と3人で笑いながらカウンターにいる姿に、意味もわからず苛つく。

「帰るわ」

後ろ向きで手を振って階段を下りていく。

「帰るの?」

「またな」

万里とはハイタッチをして、和可菜に会釈する。

伽耶の表情はやはり硬くて、かける言葉が見つからなくて。

伽耶の右手が胸元まで上がったけれど、それ以上はなくて。

透は横をすり抜けた。

タクシーに乗り込んで冷たい窓に額をあてる。

聴覚障害…透は両手で耳を押さえてみる。

車の振動と、街の灯り。

静かだと思えるのは今が夜だからなのか、一時のことだからなのか。

久しぶりの自分のベッドは相変わらずで、静寂しかない部屋にも耳をすませば秒針の音や風の音や、電気系統の僅かな振動音…こんなにも音で溢れていた事に気付く。

「何だよ、あれは嘉登のだっつーの」

額に手の甲を押し当てて自嘲した。

寝返りを打って枕に顔を押し付けて…もしもそこに彼女が居たのなら。

「ありえねー」

伸ばした左手の拳をぎゅっと握って、さっさと眠りについた。

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