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こじらせてません
第4章 拘繋


踵音でわかる。足元があやしい。

気を揉む警備員への挨拶もそこそこに、エレベーターに乗り込むと、ミサは手すりへもたれた。

遅くなってしまった。

バッグからスマホを取り出して時間を見る。
ホーム画面にバッジ表示があった。

「……」

溜息をついた。

スマホを手の中に握ったまま、廊下をのろのろと進む。

鍵を出すのが面倒だ。
なのでチャイムを鳴らした。

「おかえりなさい」

パジャマ姿のアキラが出迎えてくれた。
自分が選んだものだ。とても似合っている。

「うん……、ただいま」
「遅かったんですね」
「……心配した?」
「はい」

壁に手をついて、パンプスを片方ずつ脱いで踏み出した一歩目でよろけた。

「大丈夫ですか?」

アキラが体を支えてくれる。

「お酒くさい?」
「いえ……、その、少しだけです」

しばらく、そのままじっとしていた。

「……」やがてミサはアキラの肩へ両手をつき、「他のニオイは嗅がなくていいの?」

「ほかの匂い……?」
「心配だったんなら、ニオイ、嗅がなきゃ。男の人のニオイしないか、確認しないの?」
「どうしたんですか? すごく、酔っ払ってますか?」
「答えになってない。……酔っ払ってるよ? でも大丈夫。頭はハッキリしてる」

少年は未熟だ。
酔った人間の「大丈夫」ほど、信用できないものはない。

ゆっくり食べると、お腹にたまる。
ゆっくり飲むと、酔いづらい――はずなのだが、たいぶん回っている。

大食いでもなければ、酒に強いわけでもない。

こめかみから後頭部を、搾るような鈍痛がはびこっていた。腹も重たい。

アキラは黙った。
ミサは更に体重をかけて、アキラにもたれかかっていった。

腰へ手が回ってくる。

「……ねー、アキラくん」沈黙を嫌ったミサは、「なに、アレ?」
「なにがですか?」

また、答えになっていない。
彼の眼前へ、表示したままだったアプリ画面を見せた。

『一人でいますよ ミサさんこそ』

「ミサさんこそ。こそ、って。なに?」
「……」
「ほら、だまらないの」
「……だって」

だって?

ペットが口ごたえをした。
これは、望ましい能動的行動ではない。
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