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こじらせてません
第2章 馴致


ミサは激怒した。必ず、その邪智暴虐の女を除かねばならぬと決意した。ミサには詳細がわからぬ。ミサは、アキラの彼女である。

すぐに個室を飛び出して、水を溜めた洗面台に苦しくなるまで顔を浸けさせてでも、詳細を質したかった。

これは言葉にとどまっていないので、言いがかりではなく、やつあたりである。

だが、ミサが下衣を整え終える前に、二人は出ていってしまった。

便座へかけなおしたミサは、

『おとつい』

そこまでフリックした。そして削除した。

画面に現れるフキダシもまた、切片でしかなかった。

どんな切片が提示されても、切片であるからには、今この瞬間の平和は訪れない、という思いが、ミサの指先にバックスペースを押させた。

『ンフフ……、言うこときかないコは、ちゃーんと調教しなきゃね』

キュウリを片手に妖艶な笑みを浮かべたバリキャリ主人公は、ひざまづかせた少年へ、そう言っていた。

ストーリーの中で少年が言うこと聞かなかったことは一度もない。だが主人公は、「調教」の名において、彼を這わせたり、踏みつけたり、キュウリを使ったりしていた。

少年は恍惚の表情を浮かべていた。二人は幸せそうだった。
二人の関係に阻害要因はなく、あったとしても介入する余地はなく、ミサは棒立ちでこれを受け入れていた。

アキラと付き合うようになったとき、ミサは理想の少年を得たのだから、理想の関係を築きたいと思った。

ではどんな関係か、といえば、愛好している作品の二人の関係が、すぐにイメージとして浮かんだ。

したがって、ミサはアキラと付き合う目的を、「自分の理想のペットとして彼を調教する」と据えたのだった。

だが、アキラとの逢瀬を重ねるうち、違和感が生じた。ミサはバリキャリと同じような行為をはたらき、アキラは少年と同じような反応をみせているのに、収まりの悪い思いがする。

違和感の出どころがどこかは、すぐに突き止めることができた。

「ペットとして調教する」という目的設定が誤っていたのだ。
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