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薔薇色に変えて
第8章 想いのままに
会社を出てビルの隙間の細い夜空を見上げてから、また腕時計を見る。
何度見ても9時は過ぎている。
9時20分。
ここから歩いて薔薇色まで2分。
それでも9時22分は閉店している時間だ。
春も深まって初夏にむかうこの時期でも、夜の空気はひんやりする。
うつむき加減に歩き、そろそろ薔薇色、というあたりで顔をあげる。
私の表情は・・明るく開いた。
喫茶・薔薇色の窓から明々とした光が漏れているのだ。
思わず早足になり、重厚なドアの前に立った。
閉店の看板は出ているが、中の灯りは人がいることを示している。
ゆっくりと、ドアを引いてみる。
カウベルの音が鳴るか鳴らないかくらいの静かさで、
ゆっくりとゆっくりとドアが開いていく。
そろっと顔をのぞかせる。
カウンターに座る成沢さんが、素早く振り返った。