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薔薇色に変えて
第8章 想いのままに
日付が変わってから1時間。
大通りまで成沢さんは送ってくれた。
まだまだ減らない車の波の中からタクシーを見つけようと身を乗り出すが、
なかなか手をあげて止めようとしない。
私もまた、同じだった。
離れがたい。
いつまでもこうして寄り添っていたい・・
彼の横顔にそう書いてある。
きっと私の頬にも・・
「そろそろ・・タクシー止めましょうか?」
「そうね・・」
「あの・・静江さん」
「・・はい」
「こんな僕ですが、よろしくお願いします」
その時の私はこちらこそ、と一言言うのが精いっぱいだった。
やっと手をあげ、すぐに止まったタクシーに乗り込み、ガラス窓越しに手を振る。
行先を告げ、滑るように走り出してから、涙が目の前に幕を作った。
必死になって、流れ出るのを押さえた。
久しぶりに流す幸せの涙は、家に着くまでとっておきたかったのだ。
自分の部屋で、思う存分喜びの涙で頬を濡らそう・・
漆黒の中のオレンジ色の光の列に、心の中に灯ったいくつもの光が・・
重なって見えた。