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薔薇色に変えて
第3章 再会に添えられた喜び
皿の上のピザトーストをきれいに片づけると同時に、
香り立つコーヒーが成沢さんと私の前に置かれた。
今日の豆はマンデリン。
なぜこの豆を選んだのか。
それは成沢さんが、飲んだことが無いと言ったからだ。
「コーヒーは好きですけど、豆を選ぶほどの知識はないです」
少し背を丸める成沢さんに、私だっておなじですよと
ただのコーヒー好きであることに胸をはった。
「詳しい事はマスターに聞けばいいんです。だって、
コーヒー専門店のマスターなんだもの、ね?」
「そういうこと。なんでも遠慮なく聞いてよ。
ちなみにマンデリンはスマトラ島産で苦みとコクがあって、酸味はなく・・」
得意そうに小此木さんが前のめりになった。
こうなると話が長い事をよくわかっている私は、
「はいはい、今日の授業はここまでで結構です」とくぎを刺した。
私に無理やり話を切られた小此木さんは、
しぼんでいく風船のように力なく椅子に腰を下ろしてつまらなそうな顔で口をすぼめた。
その様子を見ていた成沢さんは、声をあげて笑い出した。
あの、寂しげな背中の持ち主とは思えないほど、
目元をたるませ体の中からあふれる笑いに身をまかせている。
「あら、そんなにウケちゃいました?」
私は語尾を笑いで震わせながら、安堵の気持ちで胸を満たした。
寂しさに覆い尽くされていたあの日の成沢さんの姿がこんなにも変化して。
独りじゃないってことがきっとこの人に笑顔をもたらしているんだ・・
私は勝手にそう思い込んだ。