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薔薇色に変えて
第6章 見守りながら・・
私の、「喫茶・薔薇色」にたいする貢献度はかなりのものになった。
モーニングに加えて仕事帰りに2日、3日と
これまでの10年ではありえないほど、時間と気持ちを薔薇色につぎ込んだ。
ぎこちなさという服を着ているんじゃないかと思わせるくらい、
始めたばかりの頃の成沢さんは緊張に全身を包まれていた。
まず客に出す水でさえ、慎重に慎重にトレイで運び
グラスを掴むその手つきが危なっかしくて見ていられないくらい、
指がこわばっていた。
準常連と私たちが呼んでいる商店街のバイトの若者や
近くの会社のサラリーマンやOLたちは、中年の新人にハラハラとした顔をする。
無事に水を配り終えると、席に着いているみんなが一斉に肩を下げる。
それを見て私はすかさず声をかけた。
「もう少ししたらその緊張もとけるから、それまで温かく見守ってくださいね」
公認常連客の私の言葉に客達はいっせいに笑い出す。
そして当の本人である成沢さんも。
すいませんすいませんと頭を下げながら、それでも笑顔を絶やさない。
その心温まる空気に溶け込んでいる成沢さんの背中を、
小此木さんは優しい眼差しで見つめていた。