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第2章 戸惑う

重ねた唇が離れると、石井は　黙ったまま俺をじっと見つめた。
「な、な……」
口もきけないでいるとすっと目が細くなって、微かに微笑んだ。

「口寂しいなら、キスしましょう」
「……は？　え？」
囁くように告げられた言葉の意味が全く頭に入ってこない。

「キスすると寿命が延びるっていうし」
「え、あ、そうなの？」

石井はうんうんと頷いて見せる。
「……いや、そういう問題じゃないだろ！」
我に返って叫ぶと石井は子供が拗ねたような顔をした。

「ダメなんですか？」
「そりゃあ、ダメだろ……」
「なんでですか？」
即切り返してくる。

「え、なんでって、そりゃあ、えっと……」
「わたし彼氏もいませんし、宮田さんもいないですよね。誰も傷つかないし、宮田さんは口寂しいのをごまかせるし、いいじゃないですか」
「いや、ええ……？」
そういう問題か？

戸惑っているうちに畳みかけられ、混乱して頭をくしゃくしゃにした。
「髪ぐちゃぐちゃですよ」

石井が手を伸ばして俺の髪に触れる。
息を止めて固まってしまう。

「……そんな警戒しなくても、痛いことなんてしませんよ」
乱れた髪を撫でながら、石井がそっと顔を近付けてくる。
俺は固まったまま、石井の伏せた睫毛と少し開いた唇が近づいてくるのをただ見つめた。