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禁煙チュウ
第2章 戸惑う
触れ合う直前で目を閉じた。
柔らかい感触。
腰のあたりがムズムズした。落ち着け、俺。

キスなんて初めてでもないのに、恥ずかしくて目も開けられない。
唇が離れると、石井の顔を見れずに目をそらした。
ふふ、と石井が笑う気配。

ぱっと顔の下半分を押さえて石井を睨んだ。
「バカにしてるだろ!」
「してませんってば」
なにが面白いのか石井はニコニコと笑っている。

だめだ、手玉に取られるぞ、と思った。
多分、その通りになりつつある、今……。


また金魚鉢に手が伸びる。
口の中のはガリガリ噛み砕いてしまう。
包み紙をゴミ箱に放り込むとチリリンとドアベルが鳴った。
石井が帰ってきたか、と思って顔を上げると団体客が何人か外へ出ていく。
残りの客も帰り支度を始めている。

「え、あ、皆様お帰りですか」
「はーい、お会計おねがいしま~っす」
幹事らしき男が立ち上がって財布を手にカウンターにやって来る。酔ってご機嫌な若めのサラリーマン。

「いい店ですねぇここ、暗くて狭くて」
悪かったな狭くて。
「さっきいた女の子も可愛かったしぃ、俺ここ通っちゃおうかな?」
ピク、と頬が引きつった。

「いや、あの子もうすぐここ辞めるんですよ。お会計一万五百六十円です」
「え~っなんで辞めちゃ……」
「いちまんごひゃくろくじゅうえんです」
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