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難問 -兄妹の領域境界-
第15章 音楽の鑑賞と実技
あとからその顛末を聞いて、詰めずにはいられなかった兄の心情を察した。
普段の学校での態度を考えると、ピアノの伴奏をするより合唱コンクールをさぼるイメージだしね・・・。

結局兄は、「自分には務まりません」と断ったものの、担任に土下座され「妹さんから上手いって聞いたから大丈夫」と言われしぶしぶ引き受けることになった。
確かに小さいころから一緒にやってるとは伝えたけど、上手いとは言ってないと何度も兄に訴えながら先生を恨んだのを覚えている。

しかし、そのおかげで私は兄の伴奏を聞くことができた。
そして兄のモルダウの伴奏に衝撃を受けた。

合唱の前奏部分、源流の最初の一滴が落ちていく様子を表すフレーズを、兄の指で奏でられる。
水滴は少しずつせせらぎとなる。その変化をアクセントとスタッカートを駆使して絶妙に表現していく。

(なに・・・これ)

こんな兄のピアノは聞いたことがない。繊細かつ優雅、軽やかなタッチ。
私はその曲の世界に飲み込まれる。
歌が始まると、音を抑え声を引き立たせる。
裏方に回りつつも、ホ短調の哀愁を感じさせる切なさをはらみながら、川の流れを表現する。
指揮者を見ながら、全体がずれないようにテンポをとる。
間奏部分は、裏方に回っていたと違う、聴いている人の心をつかむ豊かな表現力。
祖国を想う哀愁から、祖国の明るい未来を願う長調への転調、合唱の音量に合わせて伴奏も曲を盛り上げる。

曲が終わったことに気づかなかった。
兄は、こんなにも豊かな表現力と感情をどこに秘めていたのか。

ほかの伴奏者も、技術的には上手かった。
兄よりも上手い人はいた。
しかし、上手いがゆえに伴奏に徹しきれず、ソリストのような弾き方になったり、指揮をみないでずれてしまっていたり。

兄の事なら何でも知っているという自分の慢心が崩れた瞬間だった。
同時に、まだ知らない兄をもっと知りたいと切望したそんなきっかけになった曲だった。
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