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難問 -兄妹の領域境界-
第4章 ソルフェージュの視唱
意識が戻ると、衣服は整えられて濡れていた部分もきれいに拭き取られているようだった。

「あ・・・私寝てた?」

体を起こすと、ピアノの椅子を逆さに座って背もたれに首を乗せたまま私を見る。
唯一人前で見せる、小ばかにしたような笑みを浮かべながら

「上手に唄えました」

「・・・っ!」

それは、子供のころピアノのレッスンでよく先生が言っていた言葉。
ソルフェージュの視唱の時だ。

恥ずかしさに顔が火照る。

「もう、お昼ごはん食べられなかったじゃない!」

と話をすり替える。

すると

「はい」

目の前に差し出されるサンドイッチ。

受け取ると、今度はペットボトルのお茶が渡される。

(確信犯か・・・!)

準備のいい兄を睨もうとすると

今度は小さな袋を渡される。

(・・・・・?)

そして、ピンク色のハンカチ・・・じゃない!私の下着!!!

ふと、さっきまではいていた濡れた下着が横にたたまれている。

濡れた下着を袋に入れて、新しい下着をはいて・・・・って

(絶対確信犯!)

キッっとにらめつけるも、兄は窓の外を眺めてこっちを見ていない。

ありがたく下着を袋にしまい、新しいものをはく・・・

って、私の下着どこから持ってきた!

「お兄ちゃん、これどこから持ってきたの!」

「さぁ」

ちらりと時計を見ると、次の講義まであと15分。
言い合いをする時間はない。

おとなしくもらったサンドイッチを食べる。
お茶を飲んで水分補給をし、悔しいくらい好物ばかりのサンドイッチを味わう。

ポンポンと頭を撫でられる。

兄を見ると、さっきと同じようにまた窓の外を眺めている。

「ん」

私は使っていないほうの手を差し出す。

ちらっとこっちを見て、その手に指を絡めてくれる。

つながれた手を感じながら、

(私はどうしても、この人のそばにいたいんだ・・・・)

そのまま私はサンドイッチを完食した。


Fin
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