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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第6章 【回想】里見くんの願望
好きだと思っていても、卒業までは気持ちを打ち明けるつもりはなかった。
真面目な小夜先生は、生徒からの告白を断るだろうと思ったからだ。
在学中は、気まずい思いはせずに、ただ彼女のそばにいたかった。
◆◇◆◇◆
「しのちゃんはカレシと結婚しないの?」
国語準備室に集まった受験生の女子の誰かが小夜先生に尋ねたとき、俺は離れたところで赤本を解きながら、内心ドキドキしていた。
結婚なんかしてしまったら、小夜先生を手に入れる計画が少し狂ってしまう。
略奪するなら計画を変更しなければならない。それは、一番避けたい。
だから、その質問には興味津々だ。
「そうですねぇ」
コーヒーの入ったマグカップを持ったまま、小夜先生は椅子をぎしりと言わせてくるりと回る。
「今付き合っている人とは当分結婚しないと思います」
「えーっ、なんでー?」
「しのちゃん、カレシとうまくいってないの?」
「まぁ、いろいろありますよ。大人ですからね」
大人ですからね、の言葉が重い。
付き合ったらすぐ結婚が待っている未来があるわけではないということだ。子どもには理解しがたい何かがあるのだということだ。
だから、俺たち子どもは、それ以上踏み込んで聞くことはできない。
けれど、そういう空気を読むことが下手な生徒がいることも事実で。
「それは、カレシの問題? それとも、しのちゃんの?」
女子の鋭い質問に、小夜先生は苦笑する。
突っ込まれて聞かれるとは思わなかったのだろうが、そうは問屋が卸さないということだ。
女子は「大人の恋愛」に興味津々だ。
誰かはわからないが、よくぞ聞いてくれた。その話題は俺も気になる。
赤本を解くふりをして、耳はそちらを向く。