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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第6章 【回想】里見くんの願望
「どちらの問題でもありますね。私は今仕事が楽しいですし、彼はまだ教員になる夢を諦めていませんから」
教員一年目の小夜先生は、若かったせいか、生徒との距離も近かった。生徒たちと早く親しくなりたいという気持ちもあったのだろう。
小夜先生は生徒からの質問にはたいてい答えてくれたのだ。
どんなに答えづらくても。
「じゃあ、カレシが先生になったら結婚?」
「先生になるのって、難しいんですよ。私も大変だったんですから」
「へぇ! 大変なんだぁ……私、なれるかなぁ」
教育大学へ進学する予定らしい女子をなだめつつ、小夜先生は苦笑する。
「カレシが先生になれなかったらどうするの、しのちゃん?」
「今の会社で正社員登用を待つ、ってところですね」
「それっていつ頃になるの?」
「三年以上先の話ですよ。だから、皆さんも、就職浪人しないように、大学卒業後のプランをしっかり立てておくんですよ」
小夜先生の結婚は、早くて三年後。
もっと早いと、一年後、か。
俺に残された時間だ。なるべく、延長したい。いや、しなければ。
「しのちゃんはうちの先生なら誰がいい?」
「……難しい質問ですねぇ」
言いながら、小夜先生の目が泳ぐ。女子たちは気づいていないようだけど。
わかりやすいな。誰か、いるんでしょ。
あぁ、誰が好きだったの?
誰に告白したの?
付き合ったの?
気になる。気になる。気になるから、誰かもっと、突っ込んで聞いてみてよ。