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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)

 右耳を触ると、熱い。かなり真っ赤になっているはず。心臓が痛い。久しぶりにドキドキしている。こんなことで、騒ぎすぎでしょ、心臓。
 冷静に。冷静になって――。

「篠宮先生」
「ひあ!」

 去っていったはずの里見くんが、ドアの間からずいっと袋を差し出してくる。見知った紙袋に、思わず受け取ってしまう。

「玉置珈琲館の豆です。差し入れです」
「あ、ありがとう、ございます」

 今度こそ去っていった里見くんの足音を聞きながら、私は盛大なため息をつく。

 ……ない。これは、ない。生徒とどうにかなるつもりは、ない。

「あー、もう」

 けれど。
 親友のご両親が経営している喫茶店の紙袋に目を落とすと、自然に笑みがこぼれる。

「ジャマイカ産ブルーマウンテンの豆と、ドリップコーヒー……わかってるなぁ」

 受験生の時期によくここでコーヒーを飲みながら勉強していた里見宗介くん。私の好みまで覚えてくれていたようで、ちょっと嬉しい。豆は自宅で、ドリップは準備室で使ってください、という意味だ。
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