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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第7章 しのちゃんの受難(四)
着替えてリビングへ出ると、テーブルにトマトソーススパゲティが準備されていた。
水の入ったコップとフォークを手に、里見くんは笑った。
「先生は青よりオレンジのほうが似合いますよ」
「最っっ低!」
ショーツの色まで確認しなくてよろしい!
でも、テーブルに準備されていた栄養ドリンクはありがたくいただくことにして。
スパゲティも美味しそうだし、とりあえず、叱るのはあとにしよう。
「いただきます」
「どうぞ」
ニトリの白い楕円皿に、トマトの赤がよく映える。
缶詰のカットトマトを使ったのだろう。
具として、ベーコン、しめじに玉ねぎが入っている。
昨日持って帰った軟骨の唐揚げがトッピングされている。
「……美味しい」
「それは、よかった。勝手に冷蔵庫や戸棚を開けました、すみません」
「いや、構わないですよ」
「粉末のコンソメがあって良かったです。小夜先生も料理するんですね」
一人暮らしも長いので。一通りは作れる。帰り道にコンビニもスーパーもないので、家で作るしかないのだ。
「軟骨の唐揚げ、美味しいですね。どこのですか?」
「昨日行った居酒屋の食べ残しなんです。どら猫亭ニャロメっていう変な名前の店なんですけど、気に入っているんです」
「へぇ。今度連れて行ってくださいよ」
「じゃあ、今度」
本当にさらりと。自然に、その言葉は出てきた。
スパゲティをフォークでくるくる巻き付けて口に運ぶ。程よい酸味で美味しい。厚切りベーコンもいい。量もちょうどいい。
里見くんは、なぜか無言のまま私を見つめて、目が合った瞬間に破顔した。
「ありがとうございます」
「どう、いたしまして?」
どういう意味の「ありがとう」なのか、そのときはいまいちわからなかったけれど。
どういう意味なのか、はすぐにわかった。