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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第7章 しのちゃんの受難(四)
里見くんは料理はできるけど、片付けは苦手なようだ。
フライパンに、パスタ鍋に、調理器具、食器を洗うのは私の役目。
部屋は、1LDK。寝室と、LDKしかない。リビングとダイニングキッチンを遮るものがないので、さっきみたいに匂いが部屋全体に行き渡る。
スポンジを泡立てて、お皿とフォークから洗っていく。
「小夜先生」
ビクッと体が跳ねる。
至近距離で聞こえた低音に、脳内で警報が鳴り響く。
里見宗介、接近中! ただちに退避せよ!
けれど、両手が泡だらけの状態で、どこかへ逃げることはできない。
背後に里見くんの気配が感じられた直後には、彼の腕が私の体を包み込んでいた。
「……里見くん」
「怒らないで、小夜先生。二日も我慢したんだから、しばらくこのままでいさせて」
ぎゅうと力を込めて、里見くんは私を後ろから抱きすくめる。私のお腹の前で指を組んで、離れる意志がないことを示してくる。
はぁ、と短いため息が後頭部にぶつかる。
「あのね、先生」
里見くんの手は熱い。体も熱い。髪の毛に当たる唇がくすぐったい。
「俺は、今、すごく我慢しています」
「は、はあ」
「嫌だったら抵抗してって言ったのに、なんでさっき拒否しなかったんですか?」
さっき……あぁ、どら猫亭へ連れて行って欲しいという会話のことだと思い出す。
里見くんは未成年じゃないし、美味しい店だから、紹介するのは悪くないという判断だったのだけれど、まずかったのだろうか。