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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第8章 【回想】里見くんの失恋
「誠南大学へ行くのなら、推薦のほうが通りやすい。本当に里見が誠南大学へ行きたいのなら、推薦で行け」と担任から助言されても、俺は前期日程で受験する道を貫いた。
推薦入試で受験してしまったら、小夜先生と国語準備室で勉強するための大義名分が失われてしまう、という幼稚な考えだった。
それだけの理由で、俺は余計な努力をしなければならなかったし、入試のためのお金を余分に親に使わせてしまった。
何より、教員になって一年目の小夜先生に負担を強いてしまった。
研修や授業の準備で忙しいのに、国語準備室へ入り浸って小夜先生の邪魔をしたことを、本当に申し訳なく思っている。
本来なら、担当学年の生徒たちの受験の準備をしたかっただろうと、試験が終わってから気がついた。
でも、それを伝えても、きっと小夜先生は「謝らないでください。私が好きでしたことですから」と笑う気がしていた。
だから、代わりに、プレゼントを準備した。
いつもつけていたピアスは、高村礼二からの贈り物だと、女子が小夜先生から聞き出しているのをこっそり聞いていた。
高村礼二はわかっていない。
小夜先生には寒色系より暖色系が似合うのに。絶対似合うのに。
父親が教えてくれた株で少し利益が出たので、小夜先生のために、ピアスを買った。綺麗な赤が輝くルビーのピアス。絶対に似合うはずだ。
ありがとうございました、と渡すことができればいいのだけれど。