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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第8章 【回想】里見くんの失恋
三月一日、卒業式。
式には両親が揃って出席してくれた。
入学式以来の晴れ姿に、母は少し涙し、父はどこか誇らしげな顔をしていたように思う。
「里見くん、あのっ」
「え?」
「ずっと好きでした! 付き合ってください!」
同級生の、名前すら覚えていない女子からそう言われても、俺の心は全く動かない。
ただ「ありがとう。でも、ごめん。好きな人がいるから」と断るだけだった。
まだまだ賑やかな三年生の教室を離れ、俺は静かなA棟三階国語準備室の前に立つ。プレートは「在室」だ。
ノックをすると、「はぁい」と間の抜けた声が聞こえてくる。
この声が、たまらなく好きだ。好きだった。もう、これが最後だ。
「失礼します」
ふわりと漂うコーヒーの香り。その部屋の中で、ふわりと微笑む俺の大好きな人。相変わらず、マグカップを手にして佇んでいる、俺の天使。
「里見くん、卒業おめでとうございます」
俺は、覚悟を決めた。
小夜先生、俺はやっぱり、あなたが好きだ。