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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第8章 【回想】里見くんの失恋
「小夜先生、一年ありがとうございました。たぶん、合格していると思います」
「それなら良かったです。里見くん、頑張ったので、きっと努力は実りますよ」
触れたい。
その、細くて小さな体に、触れたい。
「教育学部ってことは、教師を目指すんですね。いつか私の同僚になってくれると嬉しいです」
「そのつもりで、大学でも頑張ります」
抱きしめたい。
コーヒーの匂いが香る体をぎゅうと抱きしめたい。
「寂しくなりますね、里見くんがこの部屋からいなくなってしまうと」
「俺も寂しいです。小夜先生に、会えなくなるなんて、本当に寂しい」
キスしたい。
コーヒーを含んで濡れるその唇に、キスをしたい。
「小夜先生」
「はい」
「今まで、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げた俺を、彼女はどんな顔で見つめているだろう。きっと、驚いている。
できればずっと、このまま見ていてもらいたい。でも、それはもう、叶わない。
「俺、先生に言わなければならないことがあります」
「何ですか?」
誰かに邪魔されないように、プレートは「来客中」に変更した。
ルビーのピアスをポケットの中で箱ごと握りしめて、俺は再度先生に頭を下げる。
「俺は小夜先生のことが好きです。大好きです。付き合ってください。お願いします」