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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)
「里見宗介です。誠南大学教育学部四年です。担当教科は数学で、佐久間先生について回るようになります。若輩者ではありますが、三週間よろしくお願いいたします。ちなみに、彼女はいませんが、篠宮先生を口説き落としたいので、協力してください。よろしくお願いいたします」
好奇の対象が教壇に立つなりそんなふうに自己紹介したら、恋愛話が大好きな高校生の恰好の餌食となる。
いくら特別進学クラスだと言っても、高校生は高校生。女子はきゃあきゃあと騒いで、教室の隅に立った私と里見くんを交互に見るし、男子は指笛を吹いてはやし立てる。
……頭痛がしてきた。
佐久間先生は何の助けも出してくれず、むしろ皆と同じようにニヤニヤ笑っているようにも見える。いや、笑っている。
「じゃあ、しの先生から一言」
……あ、くそ、クマめ、煽りやがった。
四十人の好奇の視線が一斉に私に集中する。
やだ、もう、死にたい。
君たち、その熱心な視線を授業にも向けて欲しいよ、まったく。
「気持ちはありがたいですし、確かに里見先生が卒業する際に『五年後に口説きに来てください』とは言いましたが、まだ四年しかたっていないので、今は口説き落とされるつもりはありません。皆さんもそのつもりで、変な気を回さないようにしてください。以上です」
「よし、じゃあ里見先生、続けてくれ」
「はい。では、最近変質者が出没しているようなので――」
職員会議で触れられた事柄をメモした手帳を読み上げながら、里見くんは教室をよく見回している。その中に私は含まれない。
なるほど、彼はオンとオフをきちんと切り替えられるんだな、と考えつく。
けれど、「先生・実習生」であるときと「元生徒」であるとき、どちらがオンでどちらがオフなのか、いまいち判断がつかなかった。