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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第11章 【回想】里見くんの決断
「はい、ブレンド」
置かれたコーヒーと、ホイップクリームの添えられたシフォンケーキ。ケーキは頼んでいない。
「それは里見さんへのサービス。試験、頑張ってね」
「ありがとうございます!」
あぁ、落ち着く。
国語準備室でよく嗅いでいたコーヒーの匂いだ。もう、それだけで、小夜先生の顔が思い出せる。小夜先生のことを考えてしまう。
いや、試験勉強、試験勉強!
頭を切り替えて、テーブルの上のものに目を通し始める。
長居しても嫌な顔をされないくらいには、マスターと奥さんの二人と仲良くなっていた。
常連のうちの一人だと思われていたら嬉しい。
誠南学園の卒業生で、今は誠南大学へ通っていることを伝えたら、「うちの娘と同じだわ」と喜ばれ、「誠南学園の学園長は実はマスターの父親」だと教えてもらえた。
なるほど、だから、誠南大学の食堂にコーヒーを卸していたのかと納得できた。学園全体にコーヒーを卸しているなら、結構な収益になるはずだ。喫茶店自体が赤字でも構わないのだろう。
……本当は、小夜先生に会いたかった。
それが、正直な気持ちだ。
卒業式に振られてからは、小夜先生に会っていない。珈琲館に出入りしていれば、いつか会えるのではないか、そんな淡い期待を抱いていた。
通い始めて、二年。まぁ、二年も会えていないということだけれど。
現実はそう甘くはなかった、ということだ。