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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第11章 【回想】里見くんの決断
玉置珈琲館のブレンドコーヒーを小夜先生は気に入っていたようで、国語準備室に必ず常備していた。よく買いに行っているのだろうと考えて、俺も珈琲館によく行くようになった。
「ブレンドで」
通りが見渡せる窓際の席に座り、奥さんにそう告げてテキストとノートを開く。
「試験勉強?」
「はい。二週間くらい、通わせてもらってもいいですか? 店が混んできたら、帰るので」
「いいわよ。うちが満席になることなんてほとんどないからね」
ごゆっくり、と微笑んで奥さんはカウンターの向こうへ消える。マスターは無言でサイフォンの準備をする。
玉置珈琲館は、学園の近くにある小さな喫茶店だ。カウンター席五つと、テーブル席四つ、個室が二つ。個室は学園関係者の会議などで使われることがあるという。
白とダークブラウンを基調とした内装で、レトロな雰囲気。けれど、開店して十年ちょっとなので、決して古くはない。
カウンターの壁面には大きな棚が据え付けられており、販売用のコーヒー豆やディスプレイ用の缶などが所せましと置いてある。見ているだけでも面白い。
マスターは無口なので、コーヒーの薀蓄などを語ってくれることはないけれど。
コーヒーを淹れるのは、マスター。ホールで注文を取ったり軽食を準備するのが奥さん。
ちなみに、ブレンドコーヒーと焼きハンバーグ定食が俺のお気に入りだ。
玉置珈琲館を訪れるのは、ほとんどが近所の人か学園関係者。にもかかわらず、知り合いや関係のあった先生にはまだ会ったことがない。もちろん、小夜先生にも。
まぁ、バレたら面倒なので、逆光で顔が見えづらい窓際の席に座っているのだ。