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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)

「……美味しい」

 ブルーマウンテンは好きなコーヒーだ。深い香りと繊細な味が私の心を落ち着かせてくれる。カフェインの過剰摂取を気にして、コーヒーは一日二杯までと決めているけれど、今夜は、いいよね。三杯目を飲んでも。
 部屋がコーヒーの匂いで満たされていく。なんて贅沢な時間。幸せなひと時。ソファに体をあずけて、ほぅとため息をつく。

「……あれ?」

 スマートフォンの通知ライトが点滅している。私がお風呂に入っている間にでも、アプリのメッセージが入ったようだ。たまに先生や生徒からの大事な用件が入ることがあるので、確認しなければならない。
 見慣れない名前からのメッセージだ。開封して目を通す。

『協力者から電話番号を聞き出しました。個人情報保護について、しっかり生徒に教えたほうが良いかと思います。情報リテラシーは今後大切なものになりますので。里見宗介』
「はっ?」

 いや、君が生徒に聞き出さなければいい話だよね!?
 実習生から恋の橋渡しを「お願い」されて、拒む女子高生はほとんどいないだろう。実習生という立場を利用して、なんて卑怯なことを……!
 まぁ、それは里見くんなら自覚しているだろうけど。

『検討します。お疲れ様でした。三週間頑張ってください』

 最後に一言、付け加える。

『ピアス、ありがとうございました』

 嬉しかったです、は消した。
 確かに、嬉しかった。恋愛感情は抜きにしても、男性からプレゼントをもらうのは、嬉しい。
 里見くんが私を忘れないでいてくれて、嬉しい。

 そう、少しだけ、嬉しかったのだ。
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