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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)
高浜先生は、格好よかった。
それだけで、単純な高校生は恋に落ちる。
単純な高校生は、勉強を頑張り、運動も部活動も生徒会活動も、頑張った。
すべては、隣のクラスの副担任の高浜先生に顔と名前を覚えてもらうため。
そして、先生と同じように教師を目指し、教育実習中に、中等部に移ってしまった高浜先生に偶然会えたとき。
「私のこと、覚えていますか?」
思い切って聞いた私を、高浜先生は、少し歳を取った笑顔で見つめて。
「ごめん、誰だっけ?」
そうして、私の初恋はガラガラと音を立てて崩れたのだ。
大好きだった先生に覚えてもらっていなかったことは、本当に辛い。悲しい。初恋だったぶん、余計にショックだった。
けれど、生徒のことは、余程のことがない限り覚えていられないのだと、最近になって、知った。ショッピングモールで再会した教え子の名前が出てこなかったのだ。人間は忘れてしまう。そんな生き物だ。
生徒たちも、いつかきっと忘れてしまう。私の授業を、私の名前を、私の声を、私の顔を。
それは当然のことで、忘れないで欲しいと求めることはできない。寂しくて、悲しいけれど、そういうものだ。
だから、「淡い想い出」として覚えていてもらおう、と私は男子生徒たちからの告白を利用した。
「ごめんね」だけだとすぐ忘れてしまう。「五年後、社会人になったら」と言うことで、彼らの気持ちを一瞬でも縛り付けた。
私は、酷い教師だ。
だから、その言葉を信じて、四年後の今日里見くんが現れたとき、驚きと同時に罪悪感を感じたのだ。
君の人生の四年も、私が縛ってしまった――。