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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第16章 しのちゃんの受難(十)

「昨日は大変でしたね」

 一緒に試験監督をする三年生の先生にそう苦笑されて、私も苦笑いを浮かべる。

「ほんと、大変でした。ご迷惑をおかけいたしました」
「いえいえ。青春ですねぇ」
「権藤先生、私はもう二十七歳ですよ」
「二十代はまだ青年ですよ」

 うむむ、と唸った私を見て権藤先生は微笑む。
 佐久間先生より少し年下の彼に、穏やかな声で言われてしまうと返す言葉が見つからない。

「今日は晴れましたねぇ」

 B棟へ続く渡り廊下から空を見上げて、少し前を歩く権藤先生は目を細めた。
 空は快晴。雲は二つ三つあるけれど。

「梅雨の晴れ間ですね」

 診断テストの問題用紙をよいしょと抱え直して、三年生の教室へと向かう。
 三年生には、昨日のことをからかわれませんように、と願いながら前を向く。
 でも、好奇の視線は浴びるだろうな、と覚悟をして。
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