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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)
浴室の扉越しに声をかけると、一瞬の間のあと、礼二が扉を押し開けて出てきた。もちろん全裸だ。
「え、なんで? 他に好きな人でもできた?」
「それは礼二のほうでしょう?」
大学時代のバイト先で出会い、付き合って、もう六年。長かった、と思う。
結婚の話も出ていたけれど、礼二が正社員になれなかったから、ずっと待っていた。その間に、浮気を何度か確認し、黙認してきた。私の仕事が忙しくて礼二の相手をしてあげられないから、と彼の浮気を許したのだ。
その礼二も、半年前にようやく塾のバイトから正社員に登用され、経済的にも安定してきたのに。そのお金は、結婚資金になることなく、浮気相手へ消えていたのだろうか。
六年は、長かった。
長かったから、愛は消え、情だけ残ってしまった。その情も、たった今、消えてしまった。
「……本気なのは小夜だけだよ」
「でも、浮気相手を本気にさせちゃったら駄目だよ」
「わかった。あっちとは別れるから」
「そういう問題じゃない」
浮気相手に執心しているわけではないみたいだ。寂しかったから、体の関係だけを求めたのだろうか。
ただ、それが塾生なら――救いようがないくらいの馬鹿だけど。