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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)
「小夜、別れるなんて言わないで。俺は別れたくない」
びっしょりと濡れた手で私に触れようとしてくる礼二。体を捻って、とらわれないように距離を置く。
「やっとバイトから正社員になれて、ようやく安定した生活が始まったばかりなのに」
「仕方ないよ。もう無理なの」
「浮気したから? 一度だけの過ちで?」
「嘘つかないで。一度だけじゃないでしょう? 信用できないのよ、もう」
礼二の目が泳ぐ。なんでバレたのか、わかっていないような顔。
なんでバレないと思っていたのか、私のほうが知りたいよ、まったく。
「六年間、お世話になりました。すぐ荷物まとめて出ていくから。あ、全裸で寒くない? 風邪引かないでね」
「えっ? もう行くの?」
「ここにいる意味がないから」
礼二は心底落胆したような表情を浮かべて私を見つめる。顔ではなくて、体を見つめている。下着をつけてバスタオルを巻いたままの女の姿を見つめ、男が想像することは多くない。
「……最後に、やっていかない?」
「やりません」
「えー、やろうよ。小夜のこと、最後に抱きたい」
「……さようなら」
本当に、もう、最低。
いつだったか、誰かが言っていた。
『先生は男を見る目がないよね』
まったく、その通りだったわ。