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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第17章 【回想】里見くんの始まりの日

「学園長代理の玉置梓です。学園長に代わり、挨拶いたします。今日から三週間、教育実習が始まりますが――」

 俺の他五人の同級生たちと学園長室で彼女の話を聞く。
 玉置梓学園長代理とは、あれから何度か珈琲館の個室で状況を報告し合う仲になっていた。
 先日も会ったばかりだから、別に緊張はしない。

 隣の長尾なんか、ガッチガチに緊張している。まぁ、今日から教育実習だということを差し引いても、実習生の中に元カレがいたらそりゃビックリするよな、と納得する。
 対する稲垣は、多少強張った面持ちだ。俺と同じように塾でバイトしていると言っていたから、実習に対してはそこまで緊張していないだろう。長尾のせいか、小夜先生のせいか、判断はつかない。

 稲垣も大石先生の後任に、と学園長代理が考えていることは知っている。稲垣が小夜先生のことを好きだったことも、俺は知っている。
 高村礼二に、稲垣に……出し抜かなきゃいけない相手が何人いるのか。まったく、もう。

 小夜先生は馬鹿なのか?
 俺にはただ、問題を先送りにしているだけのような気がしてならない。
 そんなに逃げるのが好きなら、それ以上の力で追いかけるだけだ。
 絶対、追い詰める。
 そして、絶対に手に入れる。

 五年の猶予を設けておいて、今さら「忘れていた」なんて言わせない。
 そんなこと言われたら、発狂してしまうかもしれない。

 あぁ、どうか、小夜先生が俺のことを覚えていてくれますように。
 俺の本気をちゃんと理解してくれますように。
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