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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第3章 しのちゃんの受難(二)
稲垣くんは、角にある独身寮の前で立ち止まる。外観はお洒落な、普通のマンションだ。
「……着いちゃった」
誠南学園が所有する独身寮は、たまに関連学園の先生が泊まったり、遠征の引率の先生方が泊まったりするために使われることもある。
そのため、空き部屋があっても、学園外の人に貸し出したりはしないので、出入りする人は学園関係者に限られる。
その前で長時間一緒にいると、いつ誰に見られるかわからない。実習生と一緒にいるところはあまり見られたくない。
「ありがとうございます、送ってくれて」
「……ねぇ、しのちゃん」
「はい?」
「また帰宅時間がかぶったら、今日みたいに送ってってもいい?」
部屋に上がっていってもいい? と聞かれるよりはずっと健全な申し出だ。
誰かに見られる前に早く部屋に入りたいという気持ちも相まって、私は「いいですよ」と笑う。
稲垣くんは嬉しそうに破顔して、一瞬手を広げようとして、止めた。
誰かさんなら、たぶん、抱きついてきているはずだ。
反応は同じなのに、行動は全く違うなぁ。本当に面白い。
「じゃあ、また」
「おやすみなさい」
稲垣くんとわかれ、エントランスのロックを外してエレベーターで三階へ向かう。三〇二号室が私の部屋だ。
真っ暗な部屋、「ただいま」と言っても誰も返事をしてくれないのは、やっぱり寂しい。
電気をつけて、お風呂の給湯ボタンを押したあとでため息をつく。
「……モテ期?」
何だかなぁ、と思いながら、私は高浜先生の顔を思い出す。私、年上が好きなのに、なんで年下にモテているんだろうか。
贅沢な悩みかもしれないと思いつつ、五歳も年下の子たちの顔を思い浮かべて、やっぱりため息を吐き出すのだ。
「年上にモテたい……」
本当に、切実だ。