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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)
「おはようございます、篠宮先生」
「わ、里見くん?」
さっきまで君のことを思い出していたよ、と口から出そうになる。危ない、危ない。
「どうしました?」
「あぁ、今日から教育実習でお世話になるので、挨拶をと思いまして」
「ってことは、佐久間先生の担当が里見くん?」
「はい、そうです」
少し、背が伸びた? ちょっと、大人っぽくなった? 痩せた? こういうふうに、生徒の成長を見ることができるなら、教育実習もいいかもしれない。
準備室の鍵を開けて、里見くんに入室を促す。
「どうぞ。コーヒー飲みますか?」
「いえ、すぐに職員室に戻らなければならないので」
忘れていた。実習生は多忙だ。それこそ、寝る時間もないくらいに。
初日の今日は特に忙しいのだ。
「先生、覚えていますか?」
「はい?」
「俺が先生に告白したときの、先生の返事」
覚えているも何も、毎年、言っている台詞だ。
「『大学を卒業して無事に社会人になったら、ようやく私と対等です。あと五年後にまだ私のことを覚えていたら、また口説きにきてください』と、おっしゃいましたよね、先生」
「……はい」
ちょっと口元が緩んでしまう。
いや、なんか、照れるなぁ。そうやって、言われると。恥ずかしい。
「あと一年、我慢できそうにないので、今から口説き始めてもいいですか?」
「は?」