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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)
え、と思う間もなく、国語準備室へ押し入れられて、ドアを閉められる。何を、と言う間もなく、里見くんの腕の中にすっぽりとおさまっている私がいる。
……へっ? 何が、起きている?
目の前に、ネクタイ。密着した胸。頬を掠める二の腕の逞しさ。背中を這う指の感触。
え、ほんと、なにこれ。
コーヒーの匂いが漂う私のこの城の中で、誰かに抱きしめられたのは、初めてだ。というか、抱きしめられること自体久しぶりすぎる。昨日は礼二にキスどころか、指すら触れさせなかったから。
動揺しすぎて顔が上げられない。体が震える。けれど、何とか言葉を絞り出す。
「さ、里見くん?」
「ようやく、あの男と別れてくれたんですね、小夜先生」
耳元で声。痺れるような低音。
ぶわっと右耳が熱くなる。伝染するかのように、熱が体中に広がる。
その声は反則だ。
里見くん、君、色欲を声に混ぜないで。
その一瞬、その一言、その一声だけで「求められている」と自覚してしまう。
「別れたんでしょう? ピアス、違うから。それとも、それは新しい彼氏からもらいました?」
「いや、あの、別れましたけど、ちょっと、待って、ちょっ」
「……わかりました。待つのは得意なんで」