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Oshizuki Building Side Story
第6章 Flapping to the future!

 Hina side



 都内の一角にある、レトロな雰囲気の喫茶店。
 しっとりとしたジャズが流れている。
 
 ちりん。

 出入り口のドアが開閉される度、ドアにぶら下がっている風鈴の音が涼やかな音色を響かせる。

 ステンドグラスのような色とりどりのガラスが嵌め込まれた風鈴は、大正時代を彷彿させる室内にマッチしているが、その清涼な音色が今のあたしには、やけに薄ら寒さを感じさせるものとなっていた。

 ちりん。

 入って来たのは、サラリーマンと思われる四十代くらいのおじさんだった。
 それに落胆する反面、どこかほっとするあたしは、再び一番奥の席で緊張して座り続ける。

 ちりん。

 幾度風鈴が鳴っただろうか。
 ドアが開き、入って来た人物はあたしが待ちかねていた背広姿の男だ。
 あたしは立ち上がり、ぺこりと挨拶すると、彼はそんなものは必要ないとばかりに指先を揺らして苦笑し、すれ違う店員さんにアイスコーヒーを2つ注文して、あたしの向かい側に座る。

「お忙しいところ、お呼びだてしてしまい、すみません」
「他人行儀になるなって。ここは打ち合わせ場所から歩いて3分だ。で、朱羽がいたら出来ねぇ話とはなんだよ、カバ」

 あたしが呼び出したのは、忍月財閥の次期当主として忙しい渉さんだ。

 手短に話さなきゃと思うのに言葉が出ない。

「どうした? カバ?」

 言い淀んでいる間に、店員さんがアイスコーヒーを持ってきた。
 渉さんがストローで一度珈琲を掻き混ぜる。

 カラン、と軽快な氷の音が響いた。

 そしてストーローに口をつけたところで、あたしは意を決して言葉にした。

「あ、あの! 朱羽が浮気していまして!」

 途端渉さんは目を皿のように大きくさせると、ぶほっとかぐはっとか、まるで毒物でも飲んでもがいているかのような苦悶の声を漏らし、口に含んだ珈琲を吐き出すと、派手にげほげほと咳を繰り返した。
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