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Oshizuki Building Side Story
第6章 Flapping to the future!

「カ……げほげほっ、しゅ……げほげほげほ!」
なにか言いたげな目は涙で潤み、言葉にならない声はただの苦しげな咳に変わる。
皆の注目を浴びながら、あたしが慌ててお水を差し出すと、それを一気に飲んで、再び咽せ……落ち着いたのはゆうに五分後だった。
「あ~、死ぬかと思った。お前、驚かせるか笑わせるか、どちらかひとつにしろよ。俺を殺すなって!」
「め、滅相もない! これは切実な相談でして」
おしぼりで上品に口を拭うあたり、野生的な風貌や口調であっても、やはり優雅なお坊ちゃま育ちなのだろう。
その渉さんに、若干哀れみの籠もった眼差しで、真剣な顔で言われた。
「……カバ。今年の猛暑は全国的に異常だ。しばらく冷房のところで涼んでいれば、きっとそんな妄想はなくなる。もしなんならカウンセラー紹介してやるが?」
「暑さのせいでも妄想のせいでもなく……」
あたしは途端に目の奥が熱くなるのを感じて慌てて俯き、涙声を吐き出しそうな震える唇を噛みしめ、そしてぽつりぽつりと言った。
「あたし……朱羽に捨てられるかも」
……ああ駄目だ。声がやっぱり震えてしまった。
「一体なんでそんな風に思うんだ。どんなに日本が異常気象で狂いまくっても、朱羽は狂わねぇぞ。いつも通り、お前以外の女には塩対応なほどに涼しい。お前、朱羽の片想い歴なめんなよ?」
「でも……でもですよ? あたしがちょっと違う現場に出ないといけない仕事があって、新規の仕事の打ち合わせに朱羽が行ってくれた以降、10日間。時間中でも終業後でも飛び出していって、遅くまで家に戻らない。さらに先週、いつも週末本家に行っているのに、仕事で行けないからとあたしだけがお邪魔したじゃないですか。朱羽はそんな、仕事過多(ワーカーホリック)じゃなかったのに」

