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Oshizuki Building Side Story
第2章 Shooting the moon
 


 Eri Side


 
「真下さんと結城社長、付き合ってるんですか?」


 ……最近、不本意なことを仲間から尋ねられるようになった。


「はぁ!?」

 
 いつも決まって、しかめっ面をして返す私。


 結城と陽菜は毎回のように噂になっていたけれど、陽菜が香月と相思相愛になったからといって、なんで結城の相手が私に変わるの?


「おかしなこと言ってないで、さっさと仕事!」


「衣里」

 タイミングがいいのか悪いのか、陽菜がやってくる。

「凄いよ、ここの皺。美人さんがもったいない」

 陽菜が突きだした人差し指は、私の眉間を押し込んだ。

「……陽菜、あんたがぐいぐい押し込んでいるの、急所なんだけど」

「はっ!」

 手を引っ込めて笑う陽菜は、とても女っぽくなった。

 これはひとえに香月のおかげなのだろう。

 香月を心から愛し、そして香月からも心から愛されているから。

 私の友人は、私が欲しかった未来にいる。
 心から愛するひとと結ばれ、幸せそうだ。

 ……陽菜を愛した結城は、陽菜を変えることが出来なかった。陽菜はただ、結城と出会った九年間安定していただけで、香月と出会って陽菜は女の喜びを知った。

 友人としては嬉しいが、結城を思うと胸が痛む。

――真下。ちょっとだけ、すまない、ちょっとだけ凹ませてくれ。

 社員としての陽菜を手に入れようと、身を引いて社長になった結城が、二階にあがらないのは、きっといつも視界に陽菜を入れていたいからで。

 そして陽菜を見ているから、奴は気づきたくないものも気づくのだ。

 タンザナイトの指輪。

 クリスマス会の時まで、陽菜の指になかった宝飾品があること、そして香月と陽菜の幸せそうな顔を見れば、指輪の持つ意味は一目瞭然だ。

 特別な意味があるのだろう。

 あの鉄仮面の香月ですら、無意識にでも陽菜への愛情を隠せていないのは、それほどにふたりの距離が縮まっているからで、今回の香月の件を考えても、きっとふたりはこの先も離れることなく。

 まず香月が陽菜を離さない。
 離すとしたら、どちらかが死ぬ時だ。

 そんな誓いのようにも思えた指輪。

 ……それを見て結城は、影で泣いた。悔しがった。
 
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