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Oshizuki Building Side Story
第2章 Shooting the moon

陽菜と香月を見送った後に、顔からすっと笑顔を消し、今にも泣き出しそうな顔で凹ませてくれと、いつも通り……私が座ったままの自席に座り、大きな身体を丸めて。
幾ら私でも、同期がここまで落ち込んでいるのにひとり帰れなくて。
私は書類を片付けながら、小さく見えるその背中をぽんぽんと叩いてあやして言い聞かせる。
"きっと明日はいいことがあるから"
そう言うと、結城は机に突っ伏しながら身体を震わせた。
結城がどれだけ笑顔を見せて、ふたりを気遣っていたのか、私は知っている。
結城と陽菜には、なにか因縁じみたものがあるらしいことは結城から聞いた。それゆえに結城は動けなかったのだと。香月に奪われるのは、自業自得であり……、そしてきっとそれは、陽菜にとってもよかったのだと。
彼は、自分が穢れていると、悲しそうに笑った。
私は、結城の必要以上もの笑顔を見ながら、思っていた。
どれだけ香月を妬み、どれだけ陽菜を奪いたかったのだろうと。
笑いながら、結城は心で泣いている。
私がわからない、その"罪悪感"ゆえに彼は、陽菜への愛を、友情という厄介な箱に入れて封印する道を選んだのだ。
その道を選んでしまった彼は、もう香月から陽菜を取り返せない。取り返せないほどに、ふたりは愛し合ってしまったから。
そして私は、雅さんを奪いたくても、その相手はもうこの世におらず。どこまでも"負けた"まま。
どんなに攻めても、雅さんの心はきっと私には向かない――それを感じている今、結城の失恋が、自分のことのように心が痛かった。
きっと結城の気持ちを一番理解できるのは私で、私の気持ちを理解できるのはきっと結城だけで。
傷の舐めあいかもしれないけれど、誰よりも結城の傍にいるのが、陽菜ではなく私だということが、なんだかくすぐったい気分になっていた。
……とまあ、それは認める。
おかしな連帯感と親近感が生まれていたのは。
それが、なぜ……結城と付き合っていることになるのだろう。
大体、私達の間に恋愛感情なんて無縁だというのに。

