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隠しごと
第2章 屈辱
「あっ…え…?」
俺は間抜けな声を出してしまった。
艶やかな黒髪が目の前で揺れる。
切れ長の目は薄い黒ぶちのレンズの向こうで弧を描いていた。
「初めまして。俺は
天使 右京(あまつか うきょう)
あんたの名前は?」
独特のイントネーションで聞かれ、戸惑いながら、たどたどしく自分の名前を告
げた。
「えっと…
井上 竜平(いのうえ りゅうへい)
→の天使?」
音もなくうっすらと微笑んだ青年は、同性の俺でも見惚れる程綺麗だった。
「井上くんて、いつもそんな格好なん?」
「へ?」
はっとして自分の姿を見る。気の知れた友達と出かけるだけだと気を抜いた結果がこれか。
しかも相手はどこかしらブランド臭さえする。
いやもしかしたら、安物かもしれないけど、素材の違いは痛い。
「き、今日はたまたま、な」
「ふぅん。まっええわ、ほな遊びにいこ」
ぐいっと手を引っ張られて転びかけた。
(男同士で手を繋ぐか普通!?)
非難の声をかける暇もなくぐいぐいと進まれて、ついていくのがやっとだった。相手は傘をさしているからいいが、俺は傘をさす余裕もスペースもなく、さっきから少し強めに降り始めた雨にうたれまくっていた。ボサボサだった髪が分かりにくくなって良かった、あぁ、そう思わないとやってられない。
車と人がぐちゃぐちゃに行き交う交差点。
信号が停止サインを出し、ようやく前を歩く青年は立ち止まる。
「あの…どこ行くんだ?」
「ん?カラオケ」
約十センチ上でニコリと笑って。