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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携

「……なんで、来たの」

 Tシャツにハーフパンツというラフな出で立ちの翔吾くんが、ベンチに座る両親の前に仁王立ちしている。二人は顔を見合わせて、「健吾に聞いたから」と笑う。

「だって、翔吾ったら一度も彼女を紹介してくれないじゃない?」
「そしたら、軽井沢にいるって健吾が言うからさ」
「久しぶりに息子に会いに来たんだけど、お邪魔だったかしら?」
「すっげー、邪魔」

 リビングのテーブルに三人分のジュースを置いて、私は台所に引っ込む。桜井家の家族会議の中に割って入る勇気はない。それより、ご飯だ、ご飯。

「両親に酷いこと言うのね、邪魔だなんて」
「実際、邪魔なんだから仕方ないだろ」

 健吾くんと話すときもそうだけど、翔吾くんは家族と話すときは案外口が悪い。いや、遠慮がないのかな。私にはすごく優しいのに、そのギャップが面白い。

「あかりちゃんとは結構長いでしょ? そろそろ紹介してくれたっていいじゃない」
「は? それも健吾から?」
「カードの明細見ればわかるわよ。去年の年末からでしょ? お金の使い方、変わったもの」

 お母様がカードの明細をチェックしていたとは驚きだ。お金持ちはそういうのを気にしないと思っていた。
 あ、でも、お母様が経理や経営に携わっているなら、ありえるのかもしれない。内情は知らないけれど。

 翔吾くんは硬直している。図星だからだ。プレゼントも外食もほとんどカード支払いだったから、すべて筒抜けだったというわけだ。
 詰めが甘いのは、翔吾くんがまだ若いからだろう。お母様のほうが一枚上手だ。

「あちらは月野あかりさん。去年の十二月から付き合って……います」

 お母様の追求に観念したのか、翔吾くんは渋々私を両親に紹介し始める。彼にとっては、計算外のことだっただろうに、冷静さを装って。
 まぁ、付き合っている期間を捏造するくらいは、仕方ない。ついさっきまでセフレでした、なんて口が避けても言えない。

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