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嫌いじゃなかったの!?
第10章 9ページ目。
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あまり知らない土地に来た。
私のような人間には馴染みのない、おしゃれな街。
雰囲気のいいカフェ。
初めての場所だけれど、コーヒーの香りに心が落ち着く。
待ち合わせの時間はもうすぐ。
でもきっと、待ち人は時間通りには来ない。
そういう人だからだ
しかし、時間ぴったりに、カランカランという扉に付けられている鐘の音と共に知っている声がした
「あ、杏子ちゃんお待たせー」
そんなどこか気の抜けた声。
「大丈夫です。時間ぴったりですよ」
そういうと彼はニコリと笑って
「今日は時間通りに行くって決めてたんだ」
と言った。
「真希ちゃんとのデートの時の方が時間守った方が良くないですか?」
私がそういうと、
「真希だから守らないんだよ。だって、俺が来るのが遅いとイライラしたり、はたまた心配したり、まぁあいつのことだからって呆れたり、そうやって待ってる間俺のこと思ってくれるじゃん?」
真希に俺のこと少しでも長く考えていてほしいんだ、と少年のような笑顔で彼はそう言った。
「松田さん独特の考え方なんでしょうね。何というか、少し変わった形の愛ですね」
待っている方の身になってみろ、とは思うけれど。
「朔太郎でいいよ。杏子ちゃん。
そうだね、俺は人の心の中に残りたい。あいつはこういうやつだったなぁ、って。
人の命はいろんな人の中に分配されてると思うんだ。だから、『時間を守らない奴』としてでも残りたい。」
そういう松田さんはどこか儚げだった。
そして、怯えているようにも思えたのは気のせいだろうか。
なんにしろ、人は見た目によらないなぁと思った。
松田さんは見るからにチャラいけど、言っていることはそんな姿をまったく感じさせないような内容だった。