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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「スピードをあげろ。とりあえず普通に」
「はい」
女帝がわたしに出来なかった〝普通〟なスピードを出した瞬間、カラスが一斉に車に向かって飛んで来て、車を壊すが如く、大きく鋭いくちばしでガツガツと車体やガラスを突き始めた。
突然の来襲に悲鳴を上げた女帝がブレーキを踏んだ途端、カラス達は何ごともなかったかのように塀の上や地面に散り、各々再び長閑に憩い始めた。
と言っても、あたし達の車から離れる気はないらしく、まるで監視者のようにこちらを見ている。
その数は、あたしが運転していた時よりも、確実に増えている気がする。
「どういうこと……?」
まるで狐につままれたような心地だ。
須王が唸るようにして言った。
「このカラスは、自分より遅く動くものは危害を与えないが、速度があるものは一斉に攻撃するようだ」
「な、なぜ……。ただのカラスじゃないの?」
「……そんな風に訓練されたのか、或いは……AOPか。この数と勢いなら、無理に抜けようとすれば、車だけではなく、俺達も刻まれるかもしれねえな。車から出て走ったとなれば、瞬時にアウトだ」
ぞくっとした。
「カラスの違いなどわからねぇが、これだけの数がまるでひとつの意思を持っているかのように動くところを見れば、この数を調教したのではなく、もしかしてこれも遥や黒服男のように……」
増殖されたものかもしれないと、須王は言いたいのだ。
気味悪すぎる。
なんなのこれ。
「よほど裕貴の元に行かせたくねぇらしい。用意周到なこった」
須王は鼻で笑ったようだ。
「須王、どうすればいい? ゆっくり進んでいたら裕貴くんが危ない。でも急げば、あたし達が危なくなる」
感情を見せない黒いカラスの目が、こちらを向いている。
「――柚、お前ならどうする?」
須王が逆にあたしに聞いてきた。