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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「……柚、私死にたくないから、運転代わって」
うん、私もひとを殺したくない。
意気込みだけではどうしようもない、現実の厳しさを思い知った。
もっと身の丈に合った、〝出来ること〟を始めよう。
ちょっと周りがハイスペックだからって、見ているだけでそれに追いつけるはずなどなかった。
あたしがコクコクと頷いた時、無言だった須王が窓の外を見て言った。
「……妙だな。なんだこのカラスの多さ。家もゴミ捨て場もねぇのに」
「柚の運転が下手すぎるから、見世物にするために仲間を呼んだんじゃ?」
……著しく、女帝に同感。
と、思ったけれど、確かに随分とカラスの数が多い気がする。
「見ろよ、もう少し先」
改めてフロントガラスに目を向ける。
そこにはなにか黒いものが、視界を埋め尽くしていた。
それは――カラスの大群だ。
十羽程度ではない。百はいるかもしれない。
「え、カラスいすぎよ! どこから集まってきたの!?」
あまりの異常さに、背筋がざわっとした。
ここ周辺には、巣があるような家も大木もない。
「……柚。お前の心意気は買ってやるから、お前は助手席に移って、おとなしく三芳と運転代われ」
素直に助手席へと移動すると、女帝が後ろから運転席に滑り込んできた。
女帝が運転席に座っただけで、しっくりくる。
やはりこういう外車は、美男美女に相応しい。
……外装がどうなっているかは見たくないけれど。
「三芳、静かに車を出せ。柚のトロトロぐらいに」
「え……はい」
ゆっくりと車が走ると、散歩しているカラスが追い抜き、塀の上のカラスがアホーと鳴きながら、わたし達を見送った(ように思えた)。
「……やはり妙だな。なぜこんなにもカラスは車を警戒しない?」
その景色はまるで異常さはなく、ただ長閑な場面のように思えるのに、須王は逆に不審に思ったようだ。