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エリュシオンでささやいて
第2章 Lost Voice
そう、課長に返答したら――。
「写真も渡しただろう!? 誰もお前に音楽性なんて高尚なことは聞いてないんだよ! 売れそうな顔のいい男を選べばいいんだよ! タルタロスのモグラは、上司命令をきかずにプロ気取りか!? チーフは、どれだけ偉いのよ!」
フロアに響き渡るような大きな声でそう言われて、皆がくすくす嘲笑う。
あたしの全身の肌が、一気に嫌悪感に総毛立った。
課長は典型的に、強い者には媚びて弱い者には大きな顔をするタイプだ。
あたしをチーフにして責任あることをさせるのは、なにかあった時にあたしに責任をなすりつけるためなのかもしれない。そう疑わせる片鱗はある。
処理を速くと促されて早々に渡した書類も、自分が溜めたことを隠すために、あたしから貰ってないの一点張り。
――うちのチーフは無能だから。
何度それを聞いたか。
無能なのに、提出させられた企画書は、一部盗まれて彼の手柄となった。
彼は鼻高々に、自分はこういうことを考えるのが好きだと豪語した。
一度言ってみたことがある。
それはあたしが、徹夜をして一生懸命考えたのだと。
――誰でも考えられるものに、お前のオリジナル性がどこにある? お前が考えられるのなら、俺だって考えられる。
ハゲているのに茂という名前の課長は、でっぷりとしたお腹を揺らして悪意に満ちた顔で、呵々と笑った。
この世は弱肉強食らしい。
あたしはチーフという名の弱肉なんだ。
――お前が考えたという独自性や独創性があるのなら、証拠を出してみろ。言いがかりをつけるな!
……あれ以来、なんでもかんでも面倒なものはあたしに回して、皆の前で笑いものにする。その話題があたしの口から出ないようにしているかのようにね。出ても信憑性を薄れさせるように。
「企画部のチーフなのに、まともな案も出せずに、言われたことも出来やしない。モグラ! 新人研修受けるか!?」
傍の男性職員が言った。
「課長。タルタロスのモグラは人間の常識を知らないんですよ」
「研修しても無意味ですね」
「「あはははは」」
野次が飛べば、一斉に笑い声が響く。
なにも考えるな。
反論すれば乗じて、騒ぎが大きくなるだけだ。
黙ってやり過ごせ。
あたしは、ぎりぎりと奥歯を噛みしめ、握った拳を震わせた。