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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
 
 
 突然音が止まった。

 はらはらして見ているあたしの前で、それがわざとの勿体ぶった演出だと気づいたのは、それからたっぷり三秒後。

 原曲にはない……だけど、この曲のハ短調の音階の音で、次第にリズムも変わっていく――。

「え、ボサノバ!?」

 サンバ音楽のようなリズムをしっかりと刻みながら、メロディラインはオリジナルを踏襲しながらも、時折挟まれるアレンジにより、あの嵐のような「革命」の曲がかなりオシャレで。

 オリジナルの曲自体は有名だけれど、人間、こんなに即興でジャズにアレンジしながら弾けるものなのだろうか。

 もし指が動いていたあたしだったら、弾けたのだろうか。

――なぁ、柚。こっちの方がいいと思わね?

 確かに早瀬は、アレンジするのが早かった。
 なによりもオリジナルのよさを見抜いて、それだけを取り出して違う曲にしてしまう……今に繋がる天才だった。
 
 早瀬が片足でリズムを取りながら、ボサノバのリズムはそのままで、今度はオリジナルにはない旋律が間奏のようにして入って来た。

 そして、早瀬が弾き始めた主旋律は――、

「カルメンだ」

 ジョルジュ・ビゼー作曲『カルメン組曲(Carmen Suite)』の一曲、『ハバネラ(恋は野の鳥)』。

 歌劇『カルメン』において、ドン・ホセを惑わすカルメンのアリアの部分だが、革命からカルメンになるとは思わなかった。

 まったく違う曲なのに、違和感なく移行した。

――へぇ、カルメンって利用した男に刺し殺されるのか。だけど殺してぇほどカルメンが好きだったというのは、共感出来るかも。

 思い出に、胸がきゅっと絞られた。

 
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