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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice

「あたし、忘れ物を思い出したので、お先にどうぞ」
一度店内に戻ろうとすると、腕をとられる。
「そんなものないんでしょう? さあ、エレベータが来ましたよ、乗りましょう」
「あたし、本当に忘れ物が……」
しかし酔っていたのと男の力は強くて、声を上げたのだが誰も来るひとがいなくて。
「なにをするんですかっ」
「ああ、ふらふらですね。どこか休憩しましょうか」
男がドアを閉める。
血走った目。
なにかの香水の匂い。
整髪料のような匂い。
気持ち悪い。
とっても、気持ち悪い。
「ううっ」
一気に込み上げてくる、吐き気。
「吐きそう……」
あたしはたまらず、嘔吐してしまった。
……背広姿の男の胸元に。
「なにをするんだっ!!」
怒られても吐き気が止まらないあたしは、吐瀉物の匂いでまた吐いてしまう。エンドレスの苦しみの中、男の嫌悪の声がざらついて耳に響いた。
そのままドアが閉まる――。
「柚!!」
が、閉まらなかったのは、足が挟まっていたから。
それはあたしでも男のものでもなく。
「なんで……早瀬……っ」
この空間に居たら匂いでわかっただろう。
それじゃなくても、男の胸元とあたしの胸元は汚れている。
「来ないで、来ないで……」
見られたくないのに見られて動揺してしまうと、また吐き気が込み上げ、吐瀉物が早瀬にかかってしまった。
「なに言ってるんだよ、気持ち悪いだけか? 頭とか痛くねぇ?」
「来ないで、……ううっ」
必死に吐き気を抑えているけど、なにかすっぱいものが込み上げて。
もう胃腸が吐瀉にスタンバイしているように、痙攣している。
情けないのと苦しいのとで、涙が止まらない。
どうすればいいのかわからない。

