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エリュシオンでささやいて
第2章 Lost Voice
――お前、もう要らないから。
天使の歌声が傷口を癒やしても、あの時の傷は消えていない。
彼の捨て台詞が、あたしを男性恐怖症にさせた。
大学時代、前に進もうと男性とホテルに行こうとしたこともあったが、あの傷口にぐりぐりと指を入れて引っかき回されている痛みと窒息感を覚えて、悲鳴を上げて逃げ帰った。
どの男を見ても、セックスが目的だとしか思えず、頑なに心を閉ざしていた。
それを見兼ねた従兄のおかげで、なんとか社会に適応するくらいには回復したものの、セックスなんて冗談じゃないと思っているというのに――。
「――今夜、八時。いつものホテルで」
あたしの耳に直接囁くこの甘い声に、体が従順になる。
彼が好きで好きでたまらない、生娘のように――。
もうやだ。
この男と関わり合いたくなんてないのに。
「あたしは仕事がある。他をあたって」
「そんなもの、適当に切り上げろ」
「あなたにとって〝そんなもの〟でも、あたしにとっては……」
早瀬はテープのひとつを手にして、すたすたとドアに戻り、テープをひらひらさせた。
「俺がこいつを選んだといっておく。ユニット〝HADES〟の立案も、ボーカルの選択にお前を指定したのも俺だ。俺がこれだと言ったら、即終わるだろ。お前は俺に逆らえない。〝アキ〟は俺の手の内だ」