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エリュシオンでささやいて
第2章 Lost Voice
存在感ある後ろ姿が消えていくにつれて、あたしの引き攣った呼吸も元に戻る。
甘い香りも薄まる。
……無性に、腹立たしかった。
「お前の企画なら、最初からお前がしろ――っ!!」
思わず叫ぶと、廊下から奴の笑い声が聞こえた。
――今夜、八時。いつものホテルで
お互い、恋愛関係抜きの体の関係になったのは、半年前。
彼の呪いによって恐怖症になってしまったあたしの体を知りながら、性処理として半年彼はあたしを抱き、反応が乏しかったあたしの身体を、淫らに反応するよう作り替えた。
あたしは、屈辱に耐えながら体を捧げている。
契約履行のためだと――。
――お前は俺に逆らえない。〝アキ〟は俺の手の内だ。
半年前、従兄の亜貴と連絡が取れないことを心配して、それまで住んでいた亜貴の家を訪ねると、亜貴が倒れていた。
昏睡状態――それは劇症肝炎による肝性脳症だと診断され、一刻も早い肝臓の移植を余儀なくされたのだ。
国内待機の余裕はなく、亜貴の肝移植は外国のみ可能となったが、海外での搬出代と治療代諸々が気の遠くなるような高額で。
亜貴の状態は深刻で、募金などで善意を募っている時間もなく、亜貴の唯一の家族である亜貴の母とお金をかき集めても、あと一千万足りない。
意を決して親にお金を借りようと電話したら「そんな子はいない」と、たった三秒で笑って切られた。
もうこうなったらヤクザに売られてもいいから、早急にまとまった金を……と、ヤクザの事務所のように見えたところに乗り込もうとしたあたしに、彼はぽんと札束を投げ寄越した。
――これは契約だ。ヤクザに売れる体なら俺に売れ。俺が抜きたい時に性処理としてお前を抱く。拒絶したら契約は白紙だ。
彼が亜貴の命を繋いでくれたから、あたしは彼に逆らえない。
奴との契約履行に、あたしは彼の性処理となる。
昔も今も、プライドが砕かれても、亜貴の命を繋ぐために――。