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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「須王、早く!!」
美女の声。
そして早瀬が助手席に座り、美女が運転席に座ってエンジンをかけた。
慌てて黒服達が出てくる。
車は少しバックして……猛スピードで道路を走った。
「え? え? え?」
なにがなんだかわからない。
拉致られたのかとも思うけれど、早瀬が乗り込んでいるのならこれは拉致ではない。だったら一体、なに?
「柚チャン、おひさ~。ごめんね、猛烈なの須王にかまして」
美女が、フロントミラー越しに話しかけてくる。
おひさ……って、お久しぶりということよね。
やはり、九年前に早瀬とキスをしていたひと……。
「きゅ、九年越しの……早瀬さんの……恋人さん、ですか?」
心が悲鳴……いや絶叫を上げている。
早瀬が切れなかった女がいたということに。
そして女優も霞むようなこんな美女を相手にしていたことに。
ハナからあたしなんて、眼中になかったんだ。
わかっていたのに、悔しくて――。
だけど。
「上原、違うからな!! ありえねぇからな!!」
早瀬の怒声と、
「ぶははははは!! 私は迫っているんだけどね、全然須王ちゃん靡いてくれなくてね……」
笑う美女の声がユニゾンして。
「……えーと」
「いやーん、同級生を忘れちゃったの? 上原サン」
「は? 同級生……って」
そして行き当たるのは、ひとつの事柄。
まさか――。
「てめぇぇぇぇ……覚えてろよ、俺をひっぱたけと言ったのに、なにしやがったんだよ、棗!!!!」
な、棗くん……?
「あらぁ、私を危険に巻き込んだんだから、それくらいいいでしょう? お久しぶりでーす。私、白城棗、柚チャンと同い年で、須王と同性でーす」
後部座席で、脱力したあたしはずるっと滑り落ちた。
「は、はは……」
早瀬の友達、白城棗くんは……見た目は超美女の男性でした。